チームにおけるランクの影響を考える
「ランク」という概念を初めて知った。順位、階級を表す一般的な意味ではなく、プロセス指向心理学の提唱者である、アーノルド・ミンデルが定義した「ランク」だ。社会的地位や能力、容姿、宗教などの要素により、人のランクづけがなされる。例えば、日本においては、ジェンダーギャップ指数の低さ、資本主義、学歴社会という特徴から、「男性・高学歴・お金持ち」の人は高い「ランク」になる。そんな考え方だ。
ランクの高低差
意識している、していないに関わらず、「ランク」の高低差は、人と人の関係性に影響をおよぼす。会社でいえば、上司と部下、発注元と受注先、正社員と派遣社員という関係でランクの差をみられる。ランクの高い側からは抑圧、ランクの低い側からは抵抗がうまれる。やっかいなのは、「ランク」の高い人は、その影響に無自覚である点だ。よくいる、部下に高圧的な上司タイプの方から聞いた、「うちの会社はフラットだ」というセリフを思い出す。
アニメから見るランクの影響
現在放送されている、『86ーエイティシックスー』というアニメは、その「ランク」を考えるのにちょうどいい題材だ。物語の舞台は、「アルバ」という人種と、それ以外の、人権を剥奪された人々の暮らす国。隣国とは戦争状態である。戦線に立つのは「アルバ以外」の人種で、アルバの軍人は安全地帯から指揮命令をする。アルバ以外は「人」ではないので、戦死者はいつもゼロである。
ネタバレになってしまうので詳細は書かないが、ランクの高い側である「アルバ」の主人公は、このような人種差別が悪いことだと考えている。自分は他の軍人とは違う。自分の指揮命令をする部隊の隊員とは、雑談を含めうまくコミュニケーションを取れているし、関係性もできている。しっかり指揮命令もできているし、部隊の役に立っている。「人」として接することができている、と思っている。しかし、隊員側は、そうは思っていない。表面上は、ふつうに言葉を交わしている。しかし、心の中では反発、不満、いらだち、あきらめ、無関心、そんな感情が渦巻いているのだ。
うまくいっていると思っているのは、ランクの高い主人公だけなのである。「うちの部隊はフラットだ」、なのである。「ぼくは、主人公のように無自覚ではないか?うまくいっていると思っているだけなのではないか?」。今までの自分自身をふりかえり、ゾッとした。
86は、AmazonPrimeはじめ、様々な動画配信サービスでも見られるので、気になる方はぜひ見てほしい(アニメとしても楽しめると思う)。
ランクの影響を減らすには
少し前に、ぼくの支援していたチームは、事業会社→元請け→下請けという関係性で成り立っていた。いま思うと、少なからず、受発注の関係性によるランク差の影響を受けていたのだろう。チーム内の関係性は、悪いわけではない。しかし、言葉や態度の端々にランクの影響が現れていた。「リーダーの言っていることだから従います」、「お客様(事業会社)に心配かけないような言い回しにしよう」、そういう言葉を良く聞いた。そんな言葉の裏に、何らかの気持ちが隠れているように思えた。
ぼくは、この状態を解決できないかと試行錯誤した。解決しないと、チームとして力を発揮することができないと考えたからだ。例えば、意志決定やアイデア出しの場において、有益な情報や意見を出せなくなってしまう。ランクの影響の元では言いづらい、反対意見もウェルカムなのである。
ランクの意識をなくしたいからといって、「なくそう!」といっても、無くなるものではない。なぜなら、ランクの高い人は自覚できないし、低い人は抑圧になれすぎていて、自覚できていないことも多いからだ。そもそも、意識する、しないの話ではない。これは、例え自分は大丈夫と思っていても、ほとんどの人が偏見を抱えているという、ハーバードビジネスレビューの論文からもわかる(『道徳家ほど己の偏見に気づかない』)。
ぼくの試したアプローチは3つあった。なるべく発言機会を平等にすること、ランクを匂わせる言葉を使わないこと、ランクを匂わせる役割を固定化しないことだ。ファシリテーションとしては基本のきではある。ランクの概念を知った今、あらためてよい考え方だなと感じている。
ふりかえりやチームビルディングなど、さまざまな意見が必要な場合は付箋(今はオンラインホワイトボード)を使って案出しをする。「リーダー」、「○○さま」、「○○させていただく」という言葉を使わないようにする。会議のファシリテーター役を、受発注側問わず、交代制にする。続けていくうちに、それまで特定の人しか発言しなかった会議で、発言する人が少しずつ増えていった。
これらのアプローチはうまくいった、と思ってはいるが、もしかしたら、ぼくがランクの高い立場だったから、うまくいっているように見えただけかもしれない(会社としては元請けの立場)。
チーム作りの場では、ランクの影響に気を配っていくべきだ。ランクの影響を減らすには、まずは知ることが第一歩。二歩目は、公平な場作りをすると良さそうだ。
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